僥倖の景色 -魔法のコイン-【ネコが演じる 都市伝説 NO.183】
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僥倖の景色
猫が演じる不思議な話。
女子大生のAさんは、
いつも首からさげているネックレスがある。
それは、小さい時に亡くなった祖母がくれた、
今では形見になってしまったエラーコインに紐を通しただけのネックレス。
エラーコインとは、硬貨を鋳造する過程でできた、
失敗作の硬貨で、物によってはプレミアが付き価値があがることがある。
もちろん、Aさんは売る気など無い。
昔、彼女がいじめられ、
落ち込んでいた時に祖母がくれたコインだからだ。
彼女の心に幼少の頃、聞いた祖母の声がこだまする。
『お国が作る硬貨にだって、失敗作はあるんだ。
それにね。穴の空いたのものは縁起が良いんだよ。』
『その穴を埋めてくれる、何かと繋がるかもしれないだろ?
だから、これは幸運のお守りだよ。』
そう言って渡された、
穴の空いた500円玉を彼女は大事に首からさげている。
しかし、先週、満員電車から降りると、
紐が切れてコインが無くなっていた。
必死に探したが、
とうとう見つかることはなかった。
「おばあちゃん、、ごめん。。。」
幸運の硬貨を無くしたせいか、
最近は付いていない。
今も就職面接の帰りに突然の大雨に遭い。
体はびしょ濡れだ。
就職活動も周りの友人は内定を貰って行く中、
彼女は何社受けても、全く受かる兆しが無い。
もう、この世界に自分を必要としている人間は存在していない様な気すらしていた。
無力感と孤独感で押し潰されそうだった。
『大丈夫ですか?』
声をかけられ振り向くと、
近くのフードトラックから男性が手招きをしている。
不思議と心が安らぐような
甘い香りと、コーヒーのニオイ。
『食べて行きませんか?
寒いでしょ?コーヒーはサービスしますから。』
フードトラックの小さい屋根のしたに入り、
差し出されたコーヒーを受け取り、
一口飲む、冷えた体に心地よい苦味が広がる。
『ドーナツはいかがですか?美味しいよ。』
『一個、200円。』
特に空腹でもなかったが、
彼に悪いような気がして答える。
「え、、あ。。はい。。じゃあ1000円で。。」
無気力な返事が、
まるで彼女の心を映しているようだった。
それが目の前の男性に伝わったのか、
彼は優しい笑顔でドーナッツを差し出す。
はい。どうぞ。
何か嫌な事でもありました?
随分、、、悲しそうな顔をしてますね。
いえ。。最近、付いて無くて。。
もう人生が辛いな、、、って。
『そうでしたか、、、』
『じゃあ、いいこと教えてあげますね。
ドーナツの穴は何で開けると思います?』
突然の質問に戸惑い、何も思い浮かばない。
「え。。さあ。。分かりません。。。」
「スイマセン、、世間知らずで、、そんなことも、、、分からない。」
一瞬、男性は少し困ったような表情をすると、
すぐに満面の笑顔をして言った。
『ハハハ、こんなこと知ってる人のほうが、少ないと思いますよ。』
『熱が通りやすくなるらしいです。』
『穴が空いてないと生焼けになっちゃうのかな?』
『たぶん、人生も一緒。
少し欠けてるほうが、美味しくなるのかもしれませんよ。』
『それにね、、、』
男性は無造作に傍らにおいてある、
ドーナッツを一つ手に取ると、
半分に割り、自身の口元に近づけた。
『半分になったドーナッツを口元に掲げると、、
口が笑ってるみたいでしょ?ハハハ。』
『残りの半分を、、、誰かに渡すと。。。』
男性はドーナッツの片割れを、
彼女に向けて差し出した。
つられて彼女は自身の口元に自身の食べかけのドーナッツを掲げる。
『ね?相手も笑顔!!』
『笑顔は幸せを運んでくれるですよ。なんてね。』
『あ。。お釣りね。。』
『あれ、、すごい、、見て下さい。
お金にも穴が空いてる。気付かなかったなー。』
『あー五百円玉これしかないな。
細かくなっちゃうけど、全部百円玉で良いですかね?』
「その五百円玉。。。」
「それが良いです。。。」
『え、、そう?
使えるか分からないよ?』
受け取った硬貨を上にかざし穴を覗くと
そこには、綺麗な虹がかかっていた。
虹の向こうから、
優しかった祖母が微笑んでるような気がした。
人生には出逢うべくして、出逢う存在がいるという。
それは絶望の淵にいる時に、
きっとやってくる。
金は天下の回りもの、
彼女の運命の車輪は回りだしたばかりである。






