狂気の行方 動画
狂気の行方

猫が演じる不思議な話。
白色の蛍光灯に照らされた、
マンションの集合郵便箱を開け、周囲を見回した後で、ため息をつく。
そして、それは、
頭上の蛍光灯の光に狂乱する夏の蛾のように、今日も彼女の心を乱す。
「まただ。」
ため息交じりに、そう呟くと、
冷たい箱の中に、
乱雑に投函されたチラシに埋もれた、1枚の不審物を見つめる。
その紙には赤い文字で数字が書かれているだけ。
それは、まるで、
この場所に監視カメラがない事を知っているように、毎日入れてある。
警察にも相談はしているが、この紙が投函されているだけで、
他には何も被害はないので、パトロールは強化するが、
基本的には様子をみると説明されている。
近所で連続殺人事件も起こっているので、
人員が不足しているというのも原因らしい。
「はぁ、全くなんなのよ。」
「本当に気味が悪い。」
カバンから着け慣れた手袋とピンセットを出すと、
その不審物をファスナー付きの透明な袋に入れる。
使い回した為か、
袋には少し赤黒い汚れがついていた。
「汚れてる、、気付かなかった。。」
「この事件の唯一の証拠だ。慎重に扱わなければ、」
『こ、こんばんは、、』
後ろから、声をかけられ、
振り向くと見慣れた男が顔をみせる。
隣の部屋に住む男性なのだが、
狙った様に、毎日、同じ時間帯に帰宅してくる。
挙動もおかしく、
正直、かなり気味が悪い。
彼女の心を乱す、もう一つの原因だ。
「あぁ、こんばんは、」
『あ、あの、、』
「はい?なんですか?」
『こ、こないだ、警察がきてましたよね?』
『部屋が隣なので、話し声が聞こえて、、』
『あの、、僕、、推理小説とか好きで、、趣味で暗号とか解いてまして、、』
『あ、あの、、その紙の意味、、分かるかもしれなくて、、
ご迷惑でなければ、、見せて頂ければ、、あの、、』
「本当ですか!?お願いできますか?」
頭上でうるさく飛んでいた、
一匹の蛾が蜘蛛の巣にかかるのを横目に、男の言葉を遮るようなタイミングで
今しがた、取り出した紙を差し出す。
「今日来たのは、これなんですが、、他にもありまして、、
部屋に保管しているので、、ご迷惑でなければ、私の部屋にきて見て頂けますか?」
少し危険とは思ったが、リスクは承知の上だ。
これで解決できればという、淡い期待を胸に、
隣人の男性を部屋に招き入れる事にした。
古く錆びれた玄関のドアを開けると、
暗い部屋の正面にある窓ガラスに映る
自分の顔が少し緩んでいるのに気付き、心を諌める(いさめる)ように肩を鳴らす。
「あ、どうぞ、、、お上がり下さい。」
男の微妙な緊張感を払拭するため、
テーブルの上の、その悪意の束を男に差し出す。
そう、この男の好物だ。
「これなんですけど、、届いた日付順にとってあります。」
『何か意味があるかもしれませんね。ちょっと、失礼します。』
「すみません、袋が汚れていて、、袋から出して頂いて、構いませんので、」
男は袋から無造作に紙を取り出すと、
紙を並べて、つぶやく。
『全て数字か。。』
次にカバンから何か文字の書かれたノートを取り出し、見比べ始めた。
本当に推理小説が好きなのかと、疑いたくなる。
『これ、ポリュビオスの暗号かもしれませんね。』
『昔、古代ギリシャなんかで、使われていて、
この正方形の外側にある数字と、中にある文字が対応してるんですよ。』
『あ。。スイマセン、、気持ち悪いですよね。
つい興奮してしまって、、』
『例えば、11 だとAって具合に。』
『24だと、、IかJですね。』
『それで解くと、、』
「難しいんですね。」
興奮すると相手の言葉を遮ってしまう。
昔からの悪い癖だ。
「あ、スイマセン、今、何か飲み物を持ってきますね。」
『あ、お構いなく、終わったら、すぐに帰りますから、』
男を警戒しながら、キッチンへ向かう、
ここで襲われでもしたら、ひとたまりもない。
使い慣れた調理器具を握り
手首から肩までの関節を念入りに捻りほぐす。
「何か分かりましたか?」
『あの、、一応解けたんですが、、』
『よく意味が分からなくて、、並べると、、』
『【i am a murderer】、私は殺人者、、って、、意味が分かりませんよね。。』
『う。。。え?。。』
赤い鮮血が、テーブルの上の紙を真っ赤に染める。
『なんで、、』
「あなたが、これまでの私の罪を背負ってくれると、助かるけど、、さて、どうなるかしらね。」
『まさか、、アナタが、、』
蜘蛛の巣にかかった蛾のように、床の上で転げ回る男を見つめる。
「あーあー。こんなに汚しちゃって、、」
「もう、この部屋住めないじゃない。。。」
獲物を仕留めた蜘蛛のような、光を宿さない瞳が、
ゆっくりと男を観察する。
「もう、良いかな?」
そうつぶやくと、
怯えた様にスマホに手を伸ばす。
「あ、警察ですか、
突然、知らない男が家に押し入ってきて、、
たぶん、前から付きまとっていた犯人です。。」
「あ、あの、、それで、、咄嗟に包丁で抵抗したら。。」
それ以降、
その街での連続殺人事件はなくなったという。
【狂気とは即ち同じ事を繰り返し行い、違う結果を期待すること。】
これは、アインシュタインの言葉とされているが、
実は違うらしい。
何度も試しても成功しないのに、
それをやめずに繰り返すことは「狂気」であり、
成功するためには、過去の経験から学び、
行動を変えることが重要だということを意味しているという。
しかし、人生において、
再現性のない成功は幾らでも存在するのも、また事実なのかもしれない。
それを偶然と取るか、
必然と取るかは、、その人、次第なのかもしれない。。。
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